【医療過誤裁判例】新生児・低酸素性虚血性脳症・脳性麻痺・血糖値測定
2020.10.13お知らせ
大阪高等裁判所平成31年4月12日判決(判タ1467号71頁)の備忘です。
原審(神戸地方裁判所平成30年2月20日判決)では血糖値測定義務違反があったことは認められましたが、その義務違反と後遺障害との間の因果関係を認めませんでした。
その理由を簡潔にいうと、患者側の主張する原因以外の原因によって後遺障害が生じた可能性があると判断されたからです。
他方、控訴審では患者側の主張を認め、他原因によって後遺障害が生じた可能性を認めませんでした。
以下は医学的な話というよりは、個人的に気になった判旨を引用します。
「なお、控訴人の本件医院入院時における血糖値を推知する根拠となるデータは必ずしも十分なものがあるとはいえないが、それは血糖値を測定しなかったという医師の注意義務の懈怠により生じたものであって、血糖値の推移の不明確を当の医師にではなく患者の不利益に帰することは条理に反するというべきである。」
「控訴人の胃のストレス耐性が低かったことが胃出血の原因となった可能性も否定できない。しかしながら、控訴人に対しては、過長臍帯でIUGR児であったから臓器の発育が未熟である可能性を前提に治療に当たるべきであったのに、血糖値測定などが行われてなかった本件では、因果関係の判断に当たり上記可能性を重視することは相当でない。」
医療過誤訴訟で医師に不作為(やるべきことをやらなかった)の事件では、仮定的な判断、つまり実際には生じなかった事実経過を推定することになるので、判断に困難を伴うことが多くなります。
この事件のように血糖値データが知りたくても血糖値測定をしていないので正確な数値は不明になります。
本判決では、血糖値データがない点に過失が認められるのであるから、データがないことによる不明確を理由に患者側の証明が足りない主張を認めないのではなく、患者の不利益に扱うことは条理に反すると述べています。
不作為による医師に責任を実質的に考慮して因果関係の判断をしているものと思われます。
また、病院側の意見書について
「意見書は、消化管出血では致死的不整脈が起こり得るところまで上昇するとは考えにくいと指摘するが、可能性を否定する趣旨とは解されないので、上記判断を覆すに足りない。」と述べており、意見書に対する評価の仕方として参考になると思い記録しています。