東京地方裁判所医療集中部における事件概況等(令和3年)
2023.07.07
法曹時報74巻7号では東京地裁医療部における令和3年1月1日から令和3年12月31日までの医療事件第一審の概況等がまとめられている。
統計的なデータ及びそれに対する評価は以下のとおりです。
新受件数 182件(令和2年は138件であり急増している)
平均審理期間 24.6月(長期化傾向に変化なし)
診療科目(新受件数のうち) 内科35件(19.2%)、歯科(含口腔外科)34件(18.7%)、外科28件(15.4%)、整形外科21件(11.5%)
・内科の内訳は消化器9件、呼吸器7件、循環器6件、脳神経1件、その他12件
・外科の内訳は脳神経13件、消化器9件、呼吸器1件、循環器0件、その他5件
事件の終局 判決率36.8%(増加傾向)、和解率56.0%(減少傾向)
・和解108件のうち、尋問前に成立81件(75.0%)、尋問後に成立24件(22.2%)、鑑定後に成立3件(2.8%)
・審理期間が長い事件ほど判決率が高くなる傾向に変わりなし
・尋問前の和解が多いのは、①診療録や医学文献から診療経過や医学的知見を客観的に認定し、確度の高い心証を形成でき、②医療従事者の尋問を回避する意向などが理由として挙げられている。
(一部)認容率 18.3%
判決に対する上訴の比率 61.8%
和解の内訳 請求額の20%未満の金額での和解が全体の66.7%を占め、請求額と比較して低額での和解が多い傾向が見られる
・和解によって終局した事件の中には、裁判所が医療機関側に賠償責任があるという心証を抱いた事件が相当数あり、その多くが判決ではなく和解によって終局しているため、判決における認容率及び認容額が少なくなっているものと考えられる
統計的データ以外については以下の指摘があった。
①協力医の意見書
・患者の具体的な症状等に基づく評価を示すことができるため、強力な証拠となり得る。
・既済事件193件のうち83件(43.0%)で意見書が提出されている。
・医療機関側から提出されることが少ない傾向にあるのは、医療機関の担当医師が「陳述書」の中で医学的知見を示すことで足り、あえて外部の協力医に「意見書」の作成を依頼する必要性が乏しいと感じられるからではないかと推測される。
・意見書を作成する時期としては、争点整理の中盤から終盤が一般的である。
②専門委員・鑑定
・専門委員が関与した事件は既済事件193件のうち5件(2.6%)
・鑑定が実施された事件は既済事件193件のうち5件(2.6%)
これらは裁判手続に進んだ場合のデータです。
ご依頼いただいた事件全てが裁判手続に進むわけではなく、示談交渉によって話し合いで折り合える事件も多くあります。
裁判手続に進む場合には、こういったデータを踏まえて、どれだけの期間や費用がかかるのか、といったことを説明させていただいています。